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《散歩でさんぽ》 道草128号より

20191010 日更新

<散歩でさんぽ>
「人の心には最後までひとつの音楽が残り続けるのだ」と気づくことがありました。ここで何度か書いていますが実母は認知症を発症し、今年で11年になります。母に寄り添い過ごした初期と中期を過ぎ、今は私の顔も判別できない認知症後期にあたります。
その母が先日3週間入院しました。初めは個室だったので、歌が好きだった母に美空ひばりさんの曲を励ましの気持ちを込めて、よくベッドのそばで歌いました。しかしながら反応は今ひとつ。そこでミニ鍵盤を持ち込み小さな音で伴奏しながら唱歌を歌ったところ「あら?」という反応があり表情も明るく変わったのです。それからはその反応が嬉しくて毎日病院に行きスマートフォンの唱歌をイヤホンで母に聴かせていました。 
そんなことが続いた後、二人部屋に変わると、母の隣のベッドからカーテン越しに北原白秋の「からたちの花が咲いたよ〜」という歌声が聴こえ、その方は歌がお好きらしく大変お上手で、いつも歌のある部屋はそれとなく賑やかで、母も寂しくないだろうと私は安心しました。 
しばらくしてその方が退院され、次に入られた方は正信偈を唱える合間に「緑の丘の赤い屋根 とんがり帽子の時計台〜」と大きな声でいつも「鐘の鳴る丘」を歌われる方でした。カーテンが引かれているので拝顔できぬものの、私も隣でその方に合わせて歌いました。
そしてやがて母が回復し大部屋に移ると、今度は牧村三枝子さんの「みちづれ」を毎日繰り返し歌ってらっしゃる方がいました。
入院されていた方はみんな歌が好きな方ばかり。 看護師さんとの会話から皆さん認知の程度は様々に感じましたが、それぞれが決まった歌を常に口ずさんでらっしゃることに心が動かされるとともに、その曲にはきっと思い出があり、歌への想いもあるのだろうと、その方の若い頃を想像して感慨深い気持ちになりました。  
「私には何を聴かせてくれる?」と息子に聞いてみたりもしましたが、私の心に最後に残る歌は何なのだろうとついつい考えるこの頃です。
皆さんの「私のとっておきの一曲」は何でしょうか?この秋もたくさんの素晴らしい音楽に出遭っていただけますように。
ありがとうございます          
東岸 佐優里